運動システム

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さて、「CAMRの胎動-解題!実用理論辞典」シリーズの続きで、今回は運動システムです。
まずは、論文を見てみましょう。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 人の運動システムに、環境をも含むというのがシステム理論の一つの特徴である。人の運動は環境とは切っても切れない関係にある。たとえばレモンをかじると酸っぱいが、レモンは単に化学的な物質を持っているに過ぎない。人の舌も化学的な物質に対する受容器を持っているに過ぎない。まず酸っぱいと感じるためには、この両者が出会って相互作用を起こす必要がある。人の運動も同様で、人は物理的な運動能力を持っている。そして、運動を起こす地面を含め環境と出会うことによって初めて、課題や運動の意味が生まれ、運動が生まれる。



 ここでは、「環境」が「人の運動システム」に含まれるということについてもう少し考えてみたい。もっとも環境といっても10キロメートル先の石ころが、また直径0.1ミリメートルの石粒が歩行に影響を与えるわけもない。通常人の運動システムに含まれるのは、せいぜい数百メートルから数ミリ以上の大きさの範囲のものである。運動システムに含まれる環境は、皮膚によって外界と遮られたものではないが、機能的な単位として見れば、運動を生み出すための「自己」として、自己以外のものと分けることができる。



 この自己の境界線はどんどん変化する。車を運転するときには、おそらく数百メートル先の道路状況や他の車、歩行者まで運動を組織化するために自己として含まれるため、自己の境界線はずっと拡大する。人混みの中で、四方八方を人に囲まれてしまうと、境界線は縮小する。この場合半径数メートル以内の人々と足下のわずかな床面が運動を組織化するために使われる。ところが赤信号などで立ち止まり人混みが途切れ、目の前に広い空間が広がると、自己は一瞬に目の前の空間を取り込んで一気に広がる。運動や行動を生み出す自己の境界線は、一瞬一瞬に変化しているのだ。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 要素還元論に基づいた従来的なリハビリアプローチでは、皮膚で囲まれた「自己」を中心に据えて、そこから個々の要素の分解して分析していきました。
一方システム論に基づくと、人の運動システムというのは皮膚で囲まれた「自己」だけには収まりきらず、しかもその境界線は刻一刻と変化していると考えます。



 上記の車の運転のような例は、実際の日常生活感覚に照らして、すんなり納得できるように感じます。やはり生物学的な個体だけに着目していたのでは、人の運動や活動全般について記述し尽くすことは難しいと言えるでしょう。



 セラピストの臨床においても、要素還元論とシステム論の両方の視点を持って、状況に応じて適切な視点を柔軟に使いこなせるようになれば、より問題解決能力が高まることでしょうね。



【引用・参考文献】
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その1).上田法治療研究会会報, No.18, p17-29, 1995.
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その2).上田法治療研究会会報, No.19, p1-15, 1995.
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その3).上田法治療研究会会報, Vol.8 No.1, p12-31, 1996.
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その4).上田法治療研究会会報, Vol.8 No.2, p76-94, 1996.
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その5).上田法治療研究会会報, Vol.8 No.2, p120-135, 1996.
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その6 最終回).上田法治療研究会会報, Vol.8 No.3, p120-135, 1996.



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還元主義(その1)

目安時間:約 6分

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さて、「CAMRの胎動-解題!実用理論辞典」の続きです。
「これまでの物の見方、枠組みではアフォーダンスを理解することは難しい」ということでしたので、今回から「アフォーダンス」の項を一旦中断して、異なるパラダイムについて取り上げます。
 
まずは、従来的な物の見方である「還元主義」に焦点を当ててみましょう。
論文から引用してみます。
 
★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆
 
成人片麻痺患者の歩き方を理解してみよう。現在の臨床での普通のやり方は、まず歩行を良く観察することから始まる。そして一般的な歩行と比べて、どこがどう違うのかが記録される。そしてそのような違いがどうして生じたのかを考えていく訳だ。
 
手がかりとして、患側下肢の麻痺の程度が調べられる。連合反応や各反射の影響、平衡反応・立ち直り反応の消失のレベル、患肢の粗大筋力や健肢の筋力、関節可動域などが調べられる。さらに感覚や認知の検査が行われる。動機や意欲も評価されるかも知れない。
 
上に調べられた検査項目は、一枚一枚の紙に記され、カルテに挟まれる。熟練したセラピストがそのカルテをぱらぱらとめくると、どうしてその片麻痺患者がそのような歩行をするのかが、直感的にわかるらしい。もっとも学生や経験の浅いセラピストには難しい。私にも難しい。そこでこのやり方がさらに将来進歩したと考えてみよう。
 
このやり方のポイントは、歩行を構成する色々な要素に分け、そのそれぞれの要素がどのように振る舞っているかを明確にするところだ。たとえば滑らかな平地歩行で、ある患者さんの歩行には、体幹機能の低下が70%の影響力を持っている。患側下肢の麻痺が15%、健側下肢の筋力が10%、意欲その他が5%の影響力を持っている、といったことが明確になったとしよう。
 
仮に上のような割合が明らかになれば、患者さんの歩行を変化させるためには、体幹の機能を改善しなければ意味がなくなる。何しろこれが患者さんの歩行に70%の影響力を持っているのだから。最初に10%にすぎない健側下肢筋力などに働きかけようとは思うまい。体幹の安定性が得られないために、代償的に下肢の痙性による尖足を強めるなどと考察すれば、まず体幹の安定性こそが重要な課題となる。
 
このような考え方は還元主義と呼ばれる。たとえば片麻痺患者の歩行パターンなどは、それを構成する様々な要素からなる複雑な現象であり、これを理解するのは並大抵ではないと思われる。しかし、その複雑さは表面的なもので、より基本的で大きな影響力を持った要素、より重要な働きをする要素の振る舞いを理解できれば、その根元的な性質を理解できるとするような考え方である。上の例では、体幹の機能低下が最も重要な要素であり、それによって様々な歩行の性質(尖足、膝のロッキング、分回し歩行など)が説明できると考えるのである。つまり体幹機能に原因を還元(より根元的なものとして他の要らないものを切り捨てること)しているのである。
 
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
 
要するに、ある現象を理解する際、わかりやすくするために細かい要素にわけて分析していくという考え方ですね。
 
これは非常に有用で強力なアイデアです。実際に科学革命や産業革命は、還元主義に基づいて成し遂げられたと言われています。いわば、人類の飛躍的な発展を支えた大成功したアイデアです。
 
しかし、どんなに優れたアイデアでも万能とは限らない・・・、という点に注意しておいていただきたいと思います。
 
【引用・参考文献】
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その1).上田法治療研究会会報, No.18, p17-29, 1995.
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その2).上田法治療研究会会報, No.19, p1-15, 1995.
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その3).上田法治療研究会会報, Vol.8 No.1, p12-31, 1996.
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その4).上田法治療研究会会報, Vol.8 No.2, p76-94, 1996.
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その5).上田法治療研究会会報, Vol.8 No.2, p120-135, 1996.
西尾幸敏:実用理論事典-道具としての理論(その6 最終回).上田法治療研究会会報, Vol.8 No.3, p120-135, 1996.

 
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なぜCAMRなのか?(その5)

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CAMRをおススメする理由の続きです。
一つ目は、システム論をベースにしている、という点。
二つ目は、人の運動システムの作動の特徴に基づいてアプローチを構築している、という点。
三つ目は、クライエントを自律的で有能な運動問題解決者とみなしている、という点。
四つ目は、クライエントにもわかりやすい日常的な言葉を用いている、という点でした。
 
五つ目は、クライエントとの治療的関係作りも専門技術として捉えている、という点です。
 
従来的な要素還元論のパラダイムは、デカルトによる心身二元論がベースとなっています。つまり、心と身体を分けて考えているわけです。
 
そして理学療法は、このうち身体について取り扱う専門領域の一つに位置付けられます。ですので、心のことは守備範囲外のことで、専門的に取り扱っていません。養成校教育においても、基礎科目としてサラッと学ぶ程度です。
 
しかしながら、クライエントとの関係性が治療効果にも大きな影響を与えることは、臨床家なら誰もが実感していることでしょう。
 
そこで「クライエントとの信頼関係が大事です」とか「人間性を磨きましょう」とか言われるのですが、後から取ってつけたように曖昧に語られる程度に留まっているのが現状です。
 
一方、CAMRのベースとなるシステム論のパラダイムでは、心と身体を分けたりしません。システムの構成要素は、その時その場の状況によって変化しますが、その時その場のシステムの構成要素はすべて同等に考慮されます。
 
ですので、臨床的に重要だと誰もが感じているクライエントとの治療的関係作りも、CAMRでは堂々と専門技術として考えられているのです。
 

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なぜCAMRなのか?

目安時間:約 6分

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今回は、CAMRをおススメする理由について書いてみます。
(※このブログでのCAMRについての記載は、一学習者として僕が今現在理解している内容です。もしかしたらCAMRの公式な見解に照らし、間違っている所があるかもしれませんので、その点はご容赦・ご理解お願いいたします。)
 
CAMRって何?
 
という方もおられると思いますので、まずはCAMRという言葉について説明します。
 
CAMRとは、〝Contextual Approach for Medical Rehabilitation”の頭文字をとった略称で「カムル」と読みます。日本語にすると〝医療的リハビリテーションのための状況的アプローチ”となります。
 
理学療法士の西尾幸敏氏によって、システム論をベースに構築されたリハビリテーションアプローチのことです。
 
CAMRの詳細については、CAMR基本テキストCAMR公式FacebookページCAMR公式ホームページ等をご参照ください。
 
それでは、僕がCAMRをおススメする理由をいくつか挙げてみます。
 
まず、一つ目はシステム論をベースにしている、という点です。
 
アメリカでは、1990年に開催されたⅡSTEP会議において、それ以降の理学療法教育はシステム論を中心に据えることが決められました。
 
しかるに、日本の理学療法教育では、システム論という言葉は2000年前後くらいから国内の成書でも散見するようになりましたが、教育現場の実態としては特に大きな変化はありませんでした。これは僕自身、理学療法士の養成校で教員をしていた経験に基づく偽らざる実感です。
 
ちなみにシステム論と対比されるパラダイムは、要素還元論と呼ばれるもので、要素還元論から、システム論への流れはリハビリの世界だけの話ではなく、広く一般社会においても同様にあてはまります。
 
要素還元論の考え方は古くからあるのですが、デカルトの心身二元論により強力な説得力を持ち、科学革命や産業革命に多大な影響を与えたと言われています。いわば現代にもつながる大成功の立役者、というわけです。
 
そんな大成功した要素還元論ですが、世の中には要素還元論では上手く説明できない現象もたくさんあります。そこで台頭してきたのがシステム論、というわけです。
 
例えばノーベル化学賞を受賞したイリヤ・プリゴジンによる散逸構造理論や、マトゥラーナとヴァレラによるオートポイエーシス理論、割と一般的にも流行したカオス理論、複雑系なども、システム論をベースにしています。
 
この辺りは踏み込むと長くなってしまいますが、、、要するにシステム論の方が新しいわけです。
 
通常新しいものというのは、古いものの悪いところを改善していたり、古いものにはない機能を持っているなど、何かしら良い点があるものです。ガラケーとスマホを比べてみるようなイメージですね。
 
もちろん、ガラケーにも依然として使い道があるように、古い理論がダメなわけではありません。ましてや要素還元論は大成功の立役者です。今でもその有用性に疑いの余地はありません。
 
しかしながら、新しい良い理論があるのならば、それも受け入れてみた方が得ではないだろうか?ということです。
 
要素還元論に基づくアプローチしか知らない場合と、それに加えてシステム論に基づくアプローチも知っている場合を比べて考えてみましょう。
 
どちらの方が、より広い視野から問題を捉えることができるでしょうか?
 
最善と思われる具体的なアプローチ方法を決定するにあたり、どちらの方が、より多くの選択肢を想定して吟味できるでしょうか?
 
単純に考えても、要素還元論だけの場合よりも、要素還元論+システム論の場合の方が有利のような気がするのです。
 
これがCAMRをおススメする一つ目の理由です。
 
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